Craft & Process

技法

ひとつの作品の裏には、目に見えない多くの工程があります。糊を練り、型を彫り、糊を置き、染めては洗う。どの工程も、素材の状態を見ながら手で加減していく仕事です。九葉では、もち米と米ぬかで練る糊、柿渋で仕上げた渋紙、土や鉱物から作る顔料、手で績んだ麻の布など、自然の素材を選んで使っています。環境への配慮から、水洗いの水が化学物質による汚染につながりにくく、役目を終えたあとも土に還りやすく、燃やしても害の少ない原料を選んでいます。このページでは、暖簾ができるまでの工程と、型染めや筒描きなどの技法、そしてそれを支える素材についてご紹介します。

浸染(しんせん)

浸染は、布や糸を染液に浸して染める方法で、型や刷毛で部分的に色をつける「捺染(なせん)」と対になる言葉です。「浸し染め」「漬け染め」とも呼ばれます。

植物の染料で染めるときは、染液と媒染液の二つの容器を行き来させながら、染料を布に定着させます。干してはまた浸す作業を繰り返して、少しずつ色を深めていきます。経験と勘が必要で、体力もいる仕事です。

鬱金(うこん)は、媒染剤なしで木綿などの植物繊維に直接染まる、黄色の染料です。耐光堅牢度は低く、光に当たると色があせやすい性質があります。

藍染め

藍の葉には、インディゴそのものではなく、そのもとになる無色の成分「インジカン」が含まれています。インジカンは水に溶けやすく、空気中の酸素に触れて酸化すると、水に溶けない青い色素インディゴに変わります。藍染めの技法は、この性質をどう利用するかによって、大きく三つに分けられます。

  • 生葉染め:摘みたての葉を砕いて水に揉み出し、インジカンが溶けた液にそのまま布を浸して染めます。繊維に染み込んだ成分が、空気に触れて酸化し、繊維の中でインディゴになります。
  • 沈殿藍(泥藍):葉を水に漬けて成分を溶かし出した後、石灰を加えて激しく攪拌します。空気を含ませて酸化を進めると、生じたインディゴが石灰とともに凝集し、泥状に沈殿します。
  • すくも(発酵):刈り取った葉を乾燥させ、水を打ちながら発酵させて「すくも」をつくります。

沈殿藍とすくもは、いずれも水に溶けないインディゴを含んでいます。染めるときには、灰汁などのアルカリ液の中で、微生物の働きによってインディゴを還元し、水に溶ける「ロイコ体(白藍)」に変えます。これを「藍を建てる」といいます。布を浸した後に引き上げて空気にさらすと、ロイコ体が再び酸化してインディゴに戻り、繊維の中で青く発色します。

青の染まるインジカンを持った植物は世界中に数百の品種があるとされます。日本では蓼藍と琉球藍、北海道の蝦夷大青(ほそばたいせい:中国の細葉大青と同じと考えられる)があり、それぞれの土地の気候に合った藍が使われてきました。寒さに強いウォードはヨーロッパで、マメ科のインドアイの仲間は熱帯で育てられてきました。日本で主に使われるタデアイは、夏に高温多湿になる東アジアの気候に合った一年草です。春に種をまき、夏に葉を刈り取って染料にします。一年草のため、種をとって必ず撒かなければ、継げないという点で気の抜けない植物です。

藍の主な種類

植物分類主な地域特徴
ホソバタイセイ(ウォード)アブラナ科ヨーロッパ寒さに強く、インド藍が伝わる前はヨーロッパの青の主役だった。北海道のエゾタイセイはその仲間。
タデアイ(蓼藍)タデ科日本、中国、朝鮮半島日本の藍染めの主流で、すくもの原料。一年草。
リュウキュウアイ(琉球藍)キツネノマゴ科沖縄、東南アジア、中国南部湿った半日陰を好む多年草で、沈殿藍にして使う
インドアイ(木藍)マメ科インド、熱帯地域「インディゴ」という名前の由来になった植物。暑い熱帯でよく育ち、色素を多く含む。

どれも別々の科の植物ですが、同じ藍の色素(インディゴ)のもとになる成分を持っています。

日本では、本州以南で育てられてきたタデアイ、沖縄の琉球藍のほか、北海道の海岸近くにエゾタイセイ(蝦夷大青)が自生しています。エゾタイセイはホソバタイセイの仲間で、本格的な染料として使われた記録は多くありませんが、近年は地域の素材として染色を試みる活動も見られます。また北海道の伊達市などでは、明治時代に徳島から移り住んだ人々によってタデアイの栽培と藍染めが根づきました。

染め方・加工法

1. すくもによる天然灰汁発酵建て(日本の伝統技法)
タデアイの葉を刻んで乾燥させ、水をかけながら約100日かけて発酵させると「すくも」ができます。すくもは藁で編んだ袋に詰めて保管し、各地へ運搬、販売されました。購入先の紺屋でこのすくもを還元発酵させることで、染められる状態に戻します。

すくもを木灰の灰汁に入れ、ふすまや日本酒などを加えます。すると微生物の働きで藍の色素が水に溶ける状態になり、「藍が建つ」と言います。手間はかかりますが、深く落ち着いた色に仕上がり、色落ちしにくいのが特徴です。主な産地は徳島(阿波藍)です。

2. 沈殿藍(ちんでんあい)/泥藍(どろあい)
刈り取った葉を水に浸して色素を溶かし出し、葉を取り出します。そこに石灰を加えてよくかき混ぜると、藍の色素が沈んで泥状になります。これが沈殿藍です。沖縄の琉球藍のほか、中国南西部のミャオ族やトン族、タイ、ラオスなど、アジアの広い地域で行われてきた方法です。この泥藍を灰汁などで溶かして藍甕を建て、染めます。

3. 顔料として使う
沈殿させた藍を乾かし、固形や粉にしたものです。インドでは古くから固形にした藍が作られ、運びやすい交易品として世界に広まりました。日本でも藍から作った青い顔料が、日本画や浮世絵の絵の具として使われてきました。江戸時代後期には、合成顔料のベロ藍(プルシアンブルー)に置き換わっていきます。

4. 生葉染め
摘みたての葉を水と一緒にもんだり、ミキサーで砕いたりして、緑色の液を作ります。容器の中で布を液に浸し、かき混ぜながら染めた後、空気にさらすと緑から水色へと色が変わっていきます。発酵の工程がいらず手軽ですが、葉が茂る夏の間しかできません。主に絹やウールを、透明感のある淡い水色に染めます。

このほか、合成インディゴを還元剤で溶かす「化学建て」もあります。手軽で量産に向いており、広く使われています。日本の各地域の代表的な藍染め

藍の色名(藍四十八色の一部)

淡い色から順に、甕覗(かめのぞき)、浅葱(あさぎ)、縹(はなだ)、藍、紺、褐色(かちいろ)などがあります。染める回数によって濃さが変わり、名前も変わります。

日本の格地域の代表的な藍染め

  • 阿波藍(徳島):すくもの一大産地。「藍といえば阿波」と言われる。
  • 武州正藍染(埼玉):剣道着や作務衣で知られる。
  • 久留米絣(福岡)、備後絣(広島)、伊予絣(愛媛):日本三大絣と呼ばれ、いずれも藍染めの綿織物。
  • 琉球藍染(沖縄):藍の濃淡で文様を染める「藍型(えーがた)」に使われます。
  • 技法による名前:長板中形(型染め)、有松・鳴海絞り(絞り染め)、筒描きなども、藍で染めることの多い技法

引き染め

布を張り手(はりて)と伸子(しんし)で張り、刷毛で染料を引いて染める技法です。

張り手は、2本の角材を合わせた道具です。片方の内側に釘が打ってあり、もう片方にはその位置にぴったり合う穴が開いています。この間に布の端を挟んで留め、両端の張り手をそれぞれ柱などに結んで、布を長さの方向に引っ張ります。さらに、両端に針のついた細い竹の棒である伸子を布の裏に何本も渡し、幅の方向にも張ります。こうして布を宙に浮かせ、平らにぴんと伸ばしておきます。

染める前には、豆汁(ごじる)やふのりを布に引く「地入れ」をして、染料がにじんだりムラになったりするのを防ぎます。そのうえで、幅の広い引き刷毛で布の端から端まで染料を引いていきます。浸し染めと違い、大きな布でも少ない染料で染められ、ぼかしや濃淡もつけやすいのが特徴です。友禅などの地染めも、この方法で行われています。

柿渋の引き染め

柿渋は、塗った直後はごく淡い色しかつきません。天日に当てると、紫外線の働きで柿タンニンの酸化と重合が進み、少しずつ赤茶色に発色します。さらに数か月から数年寝かせておくと、空気中の酸素による酸化がゆっくり進み、色が落ち着いて深まっていきます。思いどおりに染まったかを確かめられるのは発色してからなので、気の抜けない染めです。濃くしたいときは、乾かしては塗る作業を何度も繰り返して色を重ねます。以下の作品では、表情を出すためにあえてムラをつけています。

柿渋は繊維と直接結びつくため、媒染剤はいりません。ただし、媒染によって色合いを変えることができます。灰汁や石灰水などのアルカリに通すと、柿タンニンの酸化が早く進み、赤みのある茶色に発色します。黒く発色させたい場合は鉄で媒染します。柿タンニンと鉄が結びつくと黒い化合物ができ、灰色から黒に近い色になります。お歯黒や昔の黒いインクと同じ仕組みです。

墨の引き染め

青墨や松煙墨を使って引き染めをします。墨の濃淡が景色を作ります。

灰汁で媒染する場合

灰汁(木灰を水に浸した上澄み液)はアルカリ性です。柿タンニンはアルカリ性のもとで酸化が早く進むため、柿渋で染めた布を灰汁に通すと、天日に当てるよりも早く、赤みのある茶色に発色します。仕上がりの色も、天日だけで発色させたときより赤みが強くなる傾向があります。石灰水や炭酸ソーダなど、ほかのアルカリでも同じように発色が進みます。

渋紙(しぶがみ)/型地紙(かたじがみ)

型染めに使う型紙は、「渋紙」や「型地紙」と呼ばれます。手漉きの和紙を、紙の目が縦横交互になるように重ね、柿渋で貼り合わせます。これを天日で干した後、おが屑を焚いた室(むろ)に入れて昼夜燻します。この燻す工程を「室枯らし(むろがらし)」といいます。さらに柿渋に浸す「渋入れ」をして、天日乾燥と室枯らしを繰り返します。ここまでで、1枚を仕上げるのに40日以上かかります。その後も寸法を安定させるため、数か月から1年ほど寝かせて、ようやく型紙として使えるようになります。

渋紙は、和紙に柿渋を何度も染み込ませることで不溶性になります。そのため水洗いしても破れにくく、何度も使うことができます。スレて弱ってきたら、もう一度柿渋を塗って乾かすと強さが戻ります。完全に元どおりにはならないので使える回数に限りはありますが、破れるまでにかなりの回数使えます。江戸時代の小紋などの古い型が今も残っているのは、この丈夫さのおかげです。

番手と大きさ

渋紙は厚さによって番手が決められていて、薄いものは七番から、いちばん厚いものは十五番まであります。厚さは和紙の種類と貼り合わせる枚数で変わり、基本は3枚、十四番と十五番は4枚の和紙で作られます。錐彫りで細かな点を彫る江戸小紋の型などには、薄手の渋紙が使われます。

大きさにも、八丁(約54×90センチ、基準の大きさ)、六丁、十二丁、三尺×四尺、手中(てちゅう)などの昔ながらの呼び名が残っています。

現在、渋紙を作っているところはごくわずかで、三重県鈴鹿市白子のおおすぎさんは、その貴重な作り手のひとつです。型地紙というと地味に聞こえますが、手間のかかる工程を経て、植物の素材だけで作られる、今では貴重なものです。なにより、紙そのものの色と手ざわりが美しいのも魅力です。おおすぎさんが渋紙の制作工程を紹介されているのでご覧ください。

残念なことに、この渋紙での型染をする人は近年少なくなりました。渋紙は水を含むと少し伸びるため、染めている間に含水率が変わって寸法が狂い、型を送ったときに柄が合わなくなることを恐れるためです。気ぜわしい時代ですので、扱いを厄介に思われる方が増え、今は皆さん、洋型紙を使われることが多いようです。洋型紙は薄い茶色でプラステックでできており、伸縮性がありません。渋型紙を使う場合は、型紙の上下を濡らした布で挟み、一昼夜置きます。こうすることで全体に水分が一定に入り、大きさが変わりにくくなります。

一方、渋紙は作りたては燻製の良い香りがし、触れているだけでなんともよい心持ちがするものです。彫刻をはじめると、サクサクとよい音がします。触れていても身体に悪くない、安心感もあります。そして、洗っても乾かせばよいという工夫された紙が、石油化学製品ではなく、和紙でできていること。この先人の技術に心から感謝したいと思います。

この渋紙に、細く尖った小刀や、錐彫用の特殊な先の彫刻刀で型を彫っていきます。専門の職人がおり、様々な型が彫られています。多くは江戸小紋、京小紋といわれるものです。

この渋紙に文字を彫刻し、伏せ糊や摺り染ができるように型を彫ります。間に飛んで残したいエリアがある場合は、絹糸で織られたメッシュを上から漆で貼り、意匠を維持します。

数年前に、この絹紗(メッシュ状のもの)を織る職人さんがご他界になり、絹紗は作られなくなりました。荒目と細目があったのですが。今は残念ながらポリエステルに置き換わりました。絹紗は渋紙に貼った時に、湿度・水分によって渋紙とともに伸縮するといわれていましたが、ポリエステルは伸縮しないため、柿渋の渋紙には合わせにくいものになりました。

私も買い置きがもう残りわずか数十センチほどで、今後はポリエステルを使うことになります。

柿渋(かきしぶ)とは

柿渋は、渋柿がまだ青いうちに実を採り、潰して搾った汁を発酵・熟成させて作る染料です。実を採るのは夏の終わり、渋みの成分がもっとも多い時期です。仕込んでから数年寝かせると、色が濃く、質の良い柿渋になるといわれます。

植物は傷がつくと、その部分が茶色く変色します。たとえば、葉をくしゃくしゃにしたり枝を傷つけたりすると、そこが茶色くなります。これは、植物に含まれるタンニンなどのポリフェノールが、酵素の働きで空気中の酸素と結びつく(酸化する)ために起こります。紅茶が茶色いのも、茶葉のポリフェノールが同じように酸化したためです。植物は傷を受けたとき、タンニンで傷口を覆い、虫や菌から身を守っているといわれます。

柿に含まれるタンニンは「柿タンニン(シブオール)」と呼ばれ、分子が大きいのが特徴です。たんぱく質や繊維と強く結びつく性質があり、これが渋みのもとにもなっています。このタンニンを木綿や麻などの植物繊維(動物繊維の絹にも染まります)に染み込ませたものが、柿渋染めです。

柿渋染めは、染めた後に日光に当てると、紫外線の働きで柿タンニンの酸化と重合(分子どうしが結びつくこと)が進み、色が深まります。空気中の酸素による酸化は日に当てなくてもゆっくり進むため、使い込むほど味わいのある赤茶色に育っていきます。鉄で媒染すると、灰色から黒に近い色にもなります。

また、重合した柿タンニンは繊維の表面に膜をつくるため、柿渋には防水・防腐の効果や、布や紙を丈夫にする効果があります。そのため、型染めに使う渋紙や、漁網、和傘、酒袋などにも古くから使われてきました。

柿渋やさんは、6月頃から9月ころまでに青い渋柿を各地の農家に依頼して集めます。コンテナ1杯でいくら、といった買い方をされるようです。これを潰して絞り、各社銘々の方法で発酵させています。発酵させた後には、その発酵を止めるために火入れがなされます。

柿渋で保護された木はそのまま置いておくより長持ちし、年数を経て飴色が深くなります。発色がどの程度進むのかは、その時の柿渋の状態や、環境によってかわります。染めてからすぐ日光に当て、発色を促します。その後は室内で補完し、発色していくのを待ちます。

柿渋の発酵臭は制作会社によって香りが違います。臭いという方もありますが、腐っているような臭いではなく、やはり発酵、という感じです。

この柿渋は、ホルムアルデヒドを吸着するという実験結果があるようで、環境を改善したい方にも人気がでています。

また、近年は新型コロナウィルスが不活化することを奈良県医科大学が研究し、成果を発表しています。

柿渋は、古くから暮らしのさまざまな場面で使われてきました。

代表的なのが、酒を搾るための酒袋です。もろみを入れて清酒を搾る木綿の袋に柿渋を塗ると、柿タンニンが繊維を包んで布が丈夫になります。柿タンニンには、微生物のたんぱく質と結びついて働きを弱める性質もあるため、雑菌が繁殖しにくくなります。たんぱく質と結びついて沈める性質は、今も酒造りで、酒の濁りを取る清澄剤として利用されています。

このほか、投網や漁網、桶や雑器、家屋の木部などにも塗られてきました。漆器では、柿渋に炭の粉などを混ぜた「渋下地」を、漆の下塗りとして使う例もあります。

家屋の木部を守る塗料としては、柿渋にベンガラ(酸化鉄の赤い顔料)や松煙(松を燃やして採る煤)を混ぜて使われてきました。このとき柿渋は、顔料を木に定着させるつなぎの役割を果たします。乾いて重合した柿タンニンは水に溶けない塗膜になるため、黴びにくく、洗っても落ちない便利な塗料でした。

奈良は柿の産地で、渋柿も多く植えられています。かつてはひと家庭に一本ほど渋柿の木があり、干し柿にするほか、各家庭で柿渋液も作られていたと聞きます。ちなみに、渋柿を干すと甘くなるのは、水に溶ける状態のタンニンが重合して溶けなくなり、舌で渋みを感じなくなるためです。柿渋の塗膜が固まるのと、よく似た仕組みです。

一方で、柿渋は紫外線で色が深まるものの、耐光堅牢度は高くありません。日光や雨風に長くさらされると色があせていくため、屋外で使う場合は顔料を混ぜてあっても、数年ごとの塗り直しが必要です。

筒描き

筒描きは、糊で防染する技法のひとつです。渋紙を円すい形に巻いて筒を作り、先に筒金(つつがね)と呼ばれる金属の口金をつけます。ケーキのデコレーションに使う絞り袋のようなものです。ここに防染糊を入れ、布の上に絞り出して文様の線を描きます。この糊の線が堤防の役目をして、染料がはみ出すのを防ぎ、糊を置いたところは染まらずに残ります。

防染糊には、もち米の粉に米ぬかや塩などを混ぜて蒸し、練り上げた糯糊(もちのり)を使います。筒金の口の大きさや、筒を絞る手の力加減で線の太さが変わります。糊を多く出せば大胆でおおらかな文様に、少なく出せば繊細な模様になります。

糊を置いて乾かした後、布を染料に浸したり、刷毛で染めたりします。染めた後に水で糊を洗い落とすと、糊の線のところが白く染め抜かれます。特に藍で地を染めると、白と藍のコントラストが強く出て、流れるような白い線が際立ちます。線で囲んだ内側に、顔料や染料で色を差す(色挿し)こともあります。

太い線で描く筒描きは、布団皮、風呂敷、旗、幟などに染められ、民芸として好まれてきました。婚礼の際には嫁入り支度として、家紋や鶴亀、松竹梅などのおめでたい文様を白く染め抜いた風呂敷や布団、箪笥を覆う油箪(ゆたん)などを誂えました。しかし化学染料や機械染めに押され、藍の筒描きを手がける工房は、今ではごくわずかになっています。

沖縄の紅型は主に型紙を使う型染めですが、筒描きで描くものもあり、沖縄では「筒引き」と呼ばれます。型染めとは違う、手描きならではの伸びやかな筆致に魅力があります。

一方、細い線で描く筒描きは、友禅染めの「糸目糊置き」として受け継がれています。糸のように細い糊の線で文様の輪郭を描き、その内側を筆や刷毛で彩色するもので、江戸時代の元禄のころ、宮崎友禅斎の名とともに広まりました。また、麻の生地に藍で細やかな風景文様を染めた「茶屋辻」は、江戸時代の武家の奥方の夏の装いとして好まれ、数々の名作を生み出しています。

以下は奈良県生駒市高山地区の秋祭りで使われる格衣(かくえ)と思われる衣装より

麻の手織りと思われる生地に、筒描きでのびやかに吉祥文様である双鶴文様が描かれている。地は本藍染と思われ、独特の藍の色がなんともいえない魅力ある色で精彩を放っている。所々補修もされているが、現在もまだ神事に使われている。色名としては浅葱色程度の深さの藍。明るい色が清々しい。

ねば糊(ねばのり)/糯糊(もちのり)

筒描き、型染に使う糊。糯糊(もちのり)は「ねば糊」とも呼ばれ、筒描き用の糊として染料店でも市販されています。

筒描きや型染めでは、まず防染に使う糊を作ります。糊は、もち米の粉(餅粉)と米ぬかを主な材料に、石灰や塩を加えて作ります。餅粉と小紋糠の割合は7:3~1:1まで。餅粉が多いほどエッジが柔らかくなり、小紋糠が多いほどエッジが立ちます。石灰の量は3%程度まで。あまり多いと生地に影響が出ます。

材料にはそれぞれ役割があります。

  • 餅粉:糊の粘りのもとになり、布にしっかり定着させます。
  • 米ぬか:糊の骨材として、全体に厚みと形をもたせるために使います。乾いたときにひび割れにくくし、染めた後に水で糊を落としやすくする働きもあります。
  • 石灰:糊の粘り(弾力)を強め、腐りにくくします。石灰を水(湯)で溶き、上澄み液を使います。
  • 塩:湿気を吸う性質があり、置いた糊が乾きすぎて割れるのを防ぎます。

米ぬかはそのままでは粒が粗いので、篩(ふるい)にかけて細かいものだけを使います。粗い粒が残ると、筒から絞り出すときに口が詰まったり、型紙の細かな彫りに糊が入りにくくなったりします。

餅粉と米ぬかに水を加えて練り、団子状に丸めて蒸します。蒸し上がったら熱いうちによく練り、水で溶いた石灰を少しずつ加えながら、さらに練り合わせて硬さを調えます。石灰を加えると糊はアルカリ性になり、米ぬかなどに含まれる成分が反応して、全体が黄色みを帯びてきます。

米ぬかや米粉には、フラボノイドなどの成分が含まれています。これらはアルカリ性になると黄色く発色する性質があり、石灰を加えて糊がアルカリ性になることで、全体が黄色っぽくなります。中華麺がかんすい(アルカリ性の水)で黄色くなるのと同じ仕組みです。

糊の色の変わり方で、石灰がどのくらい混ざったかの目安にもなります。

糊の硬さは用途によって変えます。型染め用は、型紙の上から箆で置いたときに形が崩れないよう、やや硬めにします。筒描き用は、筒から絞り出しやすいようやや柔らかめにしますが、柔らかすぎると布の上で流れて線がにじむため、加減が大切です。気温や湿度によっても糊の具合が変わるので、その日の様子を見ながら調整します。

材料による糊の種類

糯糊(もちのり)/ねば糊
もち米の粉に米ぬか、塩、石灰を加えて作る、日本の伝統的な防染糊です。水で落とせます。型染め、筒描き、伏せ糊など、幅広く使われます。染料店では、筒描き用の水溶性糊「ねば糊」や、型染め用の「型のり」として既製品も売られています。ねば糊は、微塵ぬかを加えて粘度を調節し、蒸して使うこともできます。

真糊(しんのり)/糊糸目
友禅の輪郭線(糸目)に使う、米の粉で作る糊です。米粉と糠を熱湯で練って蒸し、すり鉢でついて仕上げます。乾くと透明になって見えにくいため、石灰と蘇芳(すおう)の液を加えて赤く色をつけます。この赤は布には残りません。糊を置いた後は、ふのり液を塗って布に密着させます。染め上がった後は水で洗い落とします。


その他 工業的に合成された材料を使った糊
※溶剤で落とすゴム糊や、合成の防染剤を加えた糊は、九葉では使用していません。

ゴム糊/ゴム糸目
油性の糸目糊です。揮発油で薄めて粘度を調整し、糸目を引いた後に布の裏から揮発油を吹きかけて密着させます。見やすいように群青で色をつけたものもあります。水では落ちず、パークロルエチレンなどの有機溶剤で溶かして落とすため、除去は専門の業者に頼むのが一般的です。(当方では扱いません)

浸染用防染糊
高温の染液に浸けて染める技法のための化学糊です。55℃以上のお湯で固まり、冷水で溶けるという性質があります。染め終わるまで布を冷やさないように扱います。(当方では扱いません)

藍の抜染糊・模様糊
藍で染めた布から、化学的に模様を抜くための糊です。白く抜くものと半分ほど抜くものがあり、型用と筆用があります。

使い方による呼び名

材料ではなく、使う場面によって呼び分ける名前もあります。

  • 型糊(かたのり):型付けに使う防染糊
  • 糸目糊(いとめのり):友禅で文様の輪郭線を描く糊
  • 伏せ糊(ふせのり):挿した色や模様を覆って、地染めから守る糊。糯米粉に米ぬかや塩を混ぜて作ります。
  • 紋糊(もんのり):着物の紋を白く抜くための糊。粘りが必要なため糯糊を使い、ゴム糊を使うこともあります。
  • 元糊(もとのり):蒸して十分に練り上げた、もとになる糊

糊に加えるもの

  • 防染剤G(カチオン系防染剤):型のりやねば糊に10〜30%加えると、防染力が高まります。入れすぎると糊が割れたり、布から剥がれやすくなったりします。
  • グリセリン:5〜7%加えると、糊割れを防げるとされ、使う方もあります。
  • 微塵ぬか:粘度の調節に使われます。
  • ひき粉(挽粉):糊の上に振りかけて、糊の表面を守ります。

※カチオン系防染剤は当方では扱いません。

型染め(かたぞめ)

地染めをする前に型で糊を置き、染まらないエリアを作って文様を染め抜きます。

型紙を布の上に置き、箆(へら)で防染糊を塗り込むと、型紙の彫り抜かれた部分から糊が布に移ります。これを「型付け(糊置き)」といいます。長い布を染めるときは、型紙の端に彫った「星(ほし)」と呼ばれる合印を目印にして、柄がつながるように型を送りながら糊を置いていきます。

糊が乾いたら、布全体に下地の液を引き、いったん乾かします。下地には、主に次のような液が使われます。

  • ふのり液:布に張りを持たせ、にじみを防ぎます。
  • 豆汁(呉汁):大豆をすりつぶして布でこした液です。たんぱく質の膜で、染料や顔料の定着を助けます。豆汁を引く工程は「呉引き(ごびき)」と呼ばれます。

下地が乾いた後に地を染め、染め上がったら水で糊を洗い落とします。すると、糊を置いたところが白く染め抜かれて文様が現れます。

型染と筒描きのミックス

型染で文字部分のカッチリしたところを染め、筒描きで文様を染めています。英文のカッチリした雰囲気を出して、民芸の雰囲気を出さずにおき、筒描きでは手描きすることで、絵画的な躍動感のある要素を加えています。

染めには幾つかのパターンがあり、伝統的な技法として次のようなものがあります。

  • 伏せ糊:型で置いた糊で、染めたくない部分を覆う方法です。たとえば暖簾では、店名や屋号・店章などの意匠を型に彫り、白抜きしたい部分を糊で伏せてから地を染めます。文字を白抜きにしたい場合は、文字部分を糊で伏せ、文字に色を挿したい場合は、文字の周囲を糊で伏せて染まらないようにします。
  • 摺り染め(摺り込み):糊を使わず、型紙の上から刷毛で染料や顔料を直接摺り込んで文様を染めます。色ごとに型を替えて重ねれば、多色の文様も染められます。
  • 摺箔(すりはく):型紙で接着用の糊を置き、その上に金箔や銀箔を貼って文様を表します。

シンプルな技法ですが、顔料や染料を組み合わせることで、多彩な表現が可能になります。

また、上記で紹介している木のヘラも、作り手がいなくなってきています。

摺り染めと箔置き

たとえば暖簾では、店名や屋号・店章などの意匠を型に彫り、白抜きしたい部分を糊で伏せてから地を染めます。文字を白抜きにしたい場合は、文字部分を糊で伏せ、文字に色を挿したい場合は、文字の周囲を糊で伏せて染まらないようにします。

摺り染め(摺り込み)

糊を使わず、型紙を布の上に置き、彫り抜かれた部分に刷毛で染料や顔料を直接摺り込んで文様を染めます。毛先を短く切りそろえた摺り込み刷毛に少量の染料を含ませ、円を描くように摺り込むことで、にじませずに色をのせることができます。摺る力加減でぼかしや濃淡もつけられます。色ごとに型を替えて何枚も重ねて摺れば、多色の文様を染めることもでき、和更紗などがこの方法で染められています。

型紙の上から刷毛で色を摺り込むような、型を使って直接色をのせる方法は、ほかの国にもあります。

フランスのポショワール(pochoir)
金属やセルロイドなどで作った型を紙や布に置き、刷毛で絵の具を叩くようにのせて彩色する技法です。19世紀末から20世紀前半にかけて、ファッション誌の挿絵や美術書の多色刷りで盛んに使われました。型を使って刷毛で色をのせるという点で、日本の摺り染めによく似ています。

シルクスクリーン(スクリーン印刷)
型を細かい網(紗)に貼り、その上から専用のへらでインクを刷り込む方法です。今では布への捺染の主流になっています。日本の型紙には、細い部分を補強するために絹糸や紗を張る技法があり、これがスクリーン印刷の発達に影響を与えたといわれます。

木版による捺染との違い
インドの更紗(ブロックプリント)や中国の伝統的な捺染では、型紙ではなく、彫った木の版に色をつけて押す方法が中心です。日本の和更紗は、インド更紗の文様を、版ではなく型紙と摺り込みで写したものです。

顔料について

摺り染めには、染料のほかに顔料も使われます。

染料は水に溶けて繊維の内部まで染み込みますが、顔料は水に溶けない色の粉です。そのため、顔料だけでは布に定着しません。豆汁(呉汁)などで溶いて摺り込み、たんぱく質の膜で繊維の表面に色を留めます。

九葉では、土や鉱物、金属など、天然の素材から作られた顔料を使っています。

土や鉱物から作る顔料は、光で色があせにくく、耐光堅牢度が高いのが特長です。日差しを受ける暖簾にも向いています。粒子の大きさによって色の深みや質感が変わり、合成顔料にはない味わいが生まれます。

  • 土顔料:色のついた土を精製して作る顔料です。赤茶色の紅殻・弁柄(べんがら)や黄色の黄土(おうど)、黒土などがあり、土ならではの落ち着いた色合いが特長です。
  • 雲母(きら):天然の鉱物を薄くはがして粉にしたもので、真珠のような柔らかな光沢があります。浮世絵の背景を光らせる「雲母摺り(きらずり)」にも使われてきました。
  • 金属粉:本金・銀・金属を細かな粉にしたもので、金色や銀色の光沢が文様に華やかさを添えます。